有名な木製ソフトテニスラケットKawasaki New Number Oneが持ち込まれました。
変形しているが張って使いたいとのこと。未使用品と比較すると結構変わっています。
(左:未使用品) (右:持込み品)
フレームトップはこんな感じ。
木目のせいもあるのでしょうか。S字に歪んでいます。
とりあえず、そのまま張ってみます(1回目)。ちなみに横糸は左右非対称で通す方向が決まっています。「//」ではなく「/\/\」がクロスのタイオフ側になります。
…ダメでした。変形そのままです。
(この左右非対称しかもホールが斜めに切ってあることで、フレームにかかるテンションも表裏が非対称になっているのでは?変形と逆の力をかけると改善するのではないか?)
そこで所有者様のご了解のもと上下逆(2回目)。それでもダメで、左右も逆にしました(3回目)。マシンのフレームサポートに少しでも矯正してもらえるように、一本テンションをかける度にセンター、傾きを調整しながら。
…ダメでした。木目を計算してホールを切ってあるのかなぁ?変化なしというか、逆に変形が大きくなるような。そして仕上がる(横糸のフィニッシュが近づく)につれ変形していく。
(これは縦糸が張り終わり、フレームが横に太った状態、つまりマシンサポートにガッチリ食いついている状態ではサポートによる矯正が効いているものの、仕上がってストリングテンションにより面形がキープされる矯正解除状態では元の変形に戻ってしまっていることを意味する)
ならばならば、まだ変形が大きくならない状態で上下を固めてしまい、最後に中央を張る(通常の逆順)J’s Box(4回目)。(昔の変形しやすいラケットは全縦→全横ではなく、左→上→右→上…とボックスを作っていきました。最近ではバドミントンの3S張りなどもそのようです)
ストリングの通し方は2、3回目同様に規定の逆で。
…効果ありませんでした。各サポートとフレームが緩みだす後半になるとS字の歪みが増幅します。
(これはもう、どうしようもないのではないか)
最後に規定の通し方でJ’s Boxにしました(5回目)。全く納品できる仕上がりとはならず、すぐに切ってしまいましたが、結果的にこれが最も変形少なかったです。
最後に、このような経験を積ませて頂いた所有者様に感謝いたしますとともに、実使用したいとのご要望にお応えできず申し訳ありません。この経験は以後のガット張りに活かしていきます。ありがとうございました。