早さ、品質、柔軟性

ガット張りは、グロメットにストリングを通してテンションをかけれるだけの作業です。学生の頃にはバドミントン ラケットに釣糸の手張りもやった経験がありますw。テニス ラケットはストリング一本30kg弱で引きますので、これは専用マシンを使わなければラケットが折れてしまいます。

ホーム用ガット張り機から入り、本格的な業務用マシンで張る現在、個人的なストリングマシンに対する評価をまとめてみたいと思います。価格は「電動式>>>分銅式>バネ式」と大差がありますが、どのように張り上がりに違いとして効いてくるのか、価格ほどの差はあるのか、私見ですが参考にしてみて下さい。

打感に効いてくるクロス ストリング。ここに最大の違いが出ると考えています。

バネ式

手頃ゆえ多くのホームストリンガーに人気があります。構造はハンドルを回して引っ張り、設定テンションが出た時点でロックがかかって引くのを止めます。

従ってロック後の「ストリングの伸びへの追従」がありません。ポリエステルのような、ゆっくり時間をかけて伸びていく系統のストリングは、構造上緩く張り上がります。ゆっくりテンションをかけたり、複数回引いたりして緩和はできますが、ここが最大の特徴的な弱点です。

特にクロス ストリング(横糸)ですが、縦糸との摩擦下のもとに引かれます。YONEXポリツアースピンのような極端に角が立っているような高摩擦のゴワゴワのポリガットの場合、50ポンドで引いても右50左30ぐらいのテンション差になっているのではないでしょうか?(それ以上かも)

そこでクロスガットをしごく緩み取り作業を行うのですが、この時バネ式マシンは引き続けていない訳です。つまり更なるテンション低下が発生します。

非常に厳しいのは、ATWのようなクロスを張っていく先に、既にテンションのかかった横糸が存在する場合です。この環境では縦糸が山-谷-山-谷と波打っていますで、右テンションと左テンションで順目と逆目が発生します。縦糸の高低差が大きい中で編む横糸と、高低差のない中で編む横糸が一本おきに発生します。分かるでしょうか?伸び(緩み)に追従して引き続ける機能が無いために緩み取りが機能せず、前後のクロステンションを均一に均すことができないのです。

しばらくボールを打ったり時間が経ったりすると、バラバラだったテンションも収束してくるでしょう。が、この①緩めで張り上がること、②摩擦に伴うクロス ストリング不均一性、③バネ自体の劣化、がバネ式張り機の弱点と言えると思います。

 

 

 

分銅式

次は当方も初めて購入し長く愛用した分銅式です。地球の重力が動力なので、引くテンションの狂いが生じません。分銅があるので機械本体が少し重くなります。ヒンギスのお母さんも分銅式で張ってあげていたそうです。

分銅の利点はズバリ「引き続けてくれる」。バネ式のようなテンションをロックせず、ストリングの伸び(緩み)に追従し分銅がつり合うところまで下がり続け(引き続け)てくれます。おかげで、ナイロンやバドミントンのように、長く伸びるストリングは分銅が床についてしまいますので、天秤を何度か戻してやらなければならず、結構面倒です。

分銅は伸びを取ってくれます。では、テンション不均一問題をクリアできるでしょうか?

クロスの緩み取りはしごいて抜けたテンションだけ分銅が下がってくれるので緩みは取れます。が、分銅は上には戻ってくれませんので、しごき過ぎると分銅はどんどん下がって行き、逆にテンションが高くなってしまうことがあります。

それよりも分銅式の弱点はお察しの通り、天秤角度によるテンションのベクトル分解です。天秤が水平から30°ずれると0.87倍、45°ずれると0.7倍に引く力が落ちます。具体的には50ポンドで張るとして、

  • 0°… 50ポンド
  • 30°… 43.3ポンド
  • 45°… 35.6ポンド に落ちます。

引きたいジャスト テンションは水平0°でしか実現しませんが、例えば16×19本のラケット一本で35回を全て0°にするのは現実不可能です。

こちらもしばらく使っていると、こなれてはくるのでしょうが、出来たては不均一です。

 

電動式(コンピュータ制御)

最後に一般にストリングショップで導入されている電動式です。製品により仕様はまちまちで、大手メーカマシンでは100万円を超えてきます。その価値はあるのでしょうか?

コンピュータ式のテンションユニットは指定テンションに合わせた微調整を行います。ストリングが伸びたら増し引きし、強ければ緩めますので、上記2方式のテンション不均一問題が発生しません。緩み取り作業とテンション操作が正確であれば均一な仕上がりとなります

…しかし、テンションの均一性って、そんなの分かるのか?…

  1. 【外観】張り上がり水平面から眺めるとストリングの編み具合の強弱が分かります。テンションが揃っていると、山-谷-山-谷が一定の深さになっています。
  2. 【打球音】クリアに澄んだ音になります。手で叩くと不均一 → ボワン、均一 → パーン、という感じ。当店では張り上がりにテンション測定アプリを実施しておりますが、縦横あわせて均一に仕上がると、測定値(音とストリングファクターの加重平均)のバラつきが極端に小さくなります。
  3. 【打感】多くのユーザーの感想を聞きましたが、均一テンションは柔らかに感じるようです。実際、天秤式で張ったものはテンション低いはずなのに硬いと感じられました

電動式にも弱点があります。値段、装置自体が高剛性なため高重量、精密コンピュータ制御ゆえの機械的な狂いです。これはテンションゲージなどで定期的に点検・校正してやらねばなりません

 

(2022.1.28追記)

テンションユニット以外にも大事な要素がサポートアームです。

ガット張り時のラケット変形を押さえるサポート材の剛性はもとより、特にサイドアームの長さが重要で一般にホーム用<プロ用と長くなり、これによりラケットを押さえる位置をセンター近くに寄せることができます。経験上これは特に太る側の変形にかなり有効です。

ラケットセット時にサポートパッドをどの位置に当てるか、長いサポートアームを搭載するプロ用は調整幅が大きく、変形をコントロールすることができます。

 

 


以上が、ホーム用分銅式→電動式オフィシャルマシンを使い渡った感想です。電動式は手際よく高品質に張るための装置として高価やむなしだと思いました。

ガット張りは試合結果を左右するほどのものではありませんが、最近のラケットは硬くなっていますので、振動の観点からも雑味のない均一テンションの電動張りをお奨めいたします。

最後に蛇足ですが、電動式と正確な作業でラケット全面均一テンションが実現するのか?というと、実はそうでもありません。上記の分銅式の角度によるベクトル分解が水平方向でも発生するからです。ツイッターの投稿を転載します。

お分かりでしょうか?ターンテーブル中央(ラケット面の中央)に近いストリングが真っすぐテンションがかかることになります。(中央はストリングが長いので、テンションが高くても伸縮があって柔らかく感じます)

(2019.4.24追記)

上記は間違いです。水平方向(ラケット側)は滑車問題になりストリング張力に対して力の分解は起きません。グロメット摩擦によるテンション降下を無視できる場合はテンションは均一にかけられます。(実際は摩擦0にはならないし、ラケットの変形推移による張済ストリングの伸縮がありますので、完全な均一にはなりません)

現実のガット張り作業は、①フレームの変形と戻り、②一辺のストリング長・バネ定数・ヤング率の物理的因子、③グロメットやストリングの摩擦、④クランプの具合など、影響を及ぼす要因が多く存在し、これらの組み合わせがストリンガーによる癖(差)となって仕上がります。

「ガット張りDADA」では、興味をもってそれらを研究し、お客様の満足度につなげていきたいと思っています。

注)ガット張りDADAは、物理の学位を有する珍しいストリンガーです。ww

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